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ヤナーチェク:女声合唱曲集『Hradčanské písničkyフラッチャニの歌』

第一次世界大戦勃発に伴い、モラヴィア教員合唱団(1903年創設)からも、多くの団員が戦場に向かった。そこで指揮者のヴァッハFerdinand Vach(1860~1939)は、女性団員を分離して、モラヴィア自教員合唱団を創り、彼女らのために矢継ぎ早に、1月25日「狼の足跡」、2月1日この「フラッチャニ三部作」、2月12「カシュパル・ルツキー」を書いた。後のオペラ『ブロウチェク氏の旅,第2部の台本作者:プロハースカF.S.Procházka(1861~1939)の詩によるこの三部作では、古えのプラハ城の栄光と、その周辺を懐古し、苦しい大戦中の人々に相互愛を喚起している。基本的には4部(SSAA)無伴奏だが、第2曲にフルートのトリル、第3曲に短い前奏も含めハープ和音が効果的に使われている。第1曲は1916年、第3曲は1918年に歌われ、全曲初演は19123年プラハ女教員合唱曲団(1904年創設)により行われた。

1)Zlatá ulička 「黄金の小径」*1

Žlutý, modrý, Šedý domek jako hračka dětská,
v zátiší to nezalehne žádná vlna světská.
黄色や青や灰色の家 まるで子供のおもちゃのよう、
この静かなたたずまいに 人波の押し寄せることもない。

Proužek nebe v domků tlumy probleskává šeře,
ve hlubině z dálky šumí ze příkopu keře.
家並みの間からのぞく空の帯は 薄暗く輝き、
遠い鹿の谷*2の深みで 潅木がざわめく。

Nebylo zde nikdy zlata v stínu těch dvou věží,
a jen stopy hořkých smutků v tlusté hradbě lěží.
ここに黄金などなかった この二つの塔*3が影を落とす所には
苦い悲しみの跡だけが 厚い城壁の中に横たわる。

A vše co kdy osiřelo, jak by sem se sběhlo,
a kde palác zvedá čelo, na práh mu to lehlo.
かつて見捨てられたものすべてが、ここに集まってるかのよう、
宮殿がすまして立つ足元に、それらは横たわっている。

Na dva kroky od té bídy nádhery co skvělé,
ale taky zadumané, taky osiřelé.
この貧しさから数歩出れば 目もあやな眺め!
だがこれとても 物思いにふけり 孤独である

Víš-li, chudá uličko ty, že tam tráva pučí,
zlaté jizby, síně širé, že jsou ještě chudší?
知っているのか、哀れな小径よ、そこには雑草が生い茂り、
黄金の部屋も広間も、なおみすぼらしくなっているのを?
注;
1:プラハ城東北端、白塔からダリボルカ塔までの小路、ここに狙撃兵が常駐しており、
その中に金細工師もいたので、これが誤って錬金術師といわれ、この小道の通称となった。
2: プラハ城北側裏手の空壕で、昔は鹿などの動物が飼われていた。
3:入口の白塔と突当りのダリボルカDaloborka塔
黄金の小径


2)Plačící fontána「むせび泣く噴水」*

K sladké písní slavíka, slyšte, jak naříká,
spadlá ke krůpěji krůpěj, jako slz` veliká.
ナイチンゲールの甘い歌に合わせ お聞き、噴水の嘆くを、
大粒の涙のように、一粒づつ落ちる音を。

Nezvoní, jíž nezpívá, fontána plačtivá,
se spěžové misky vzdechem  slza se odlívá.
音も響かせず、もはや歌いもせぬ、むせび泣く噴水は、
ブロンズの水盤から ため息まじりに涙がしたたる。

Slysěti je každý den její vzlyk a její sten!
V zahradě jen přistup blíž, v šerém houští utajen.
いつの日も聞こえる そのすすり泣きとうめき声は!
も少し近づいてごらん、繁みに隠された庭で。

Když kol ticho jako hrob, když zvon dozněl beze stop,
v zahradách cos rozvzlyklo se, a vzlyk ten žhne do útrob.
あたりが墓のように静まり、鐘の音が跡形もなく消えるとき、
庭の中で何かがすすり泣き、その声は、はらわたに沁みわたる。

Žlutým listím postlána  nad čím pláče fontána,
po čem vzdychá usedavě od večera do rána?
黄に色づいた落葉を浴びて 何を泣くのか噴水は、
なぜに痛々しくため息をつく 夕べから夜明けまで?

Pohádka šla zahradou s družinou svou královskou,  
u fontány plesávala, zašla, zhasla s krásnou svou.
物語は庭を通っていってしまった。王様のとりまきといっしょに、
噴水のほとりで踊り歌い、美しさとともに行き過ぎ、消え去った。

Zašla, chtěla nechtěla, touha její dozněla,
pro ni tiché slzy kanou, pohádka ta ulřela!
過ぎ去った、なすすべもなく、その望みも消えうせた、
それ故に静かに涙はしたたり落ちる、物語は息絶えた!

注;
ベルヴェデル離宮前庭にある。水滴が金属盤に当る音から命名。皇帝(1564年死去)の注文
は1562年.デザインはテルツィオFrancesco Terzio(1523ベルガモ~91)が、鋳造はヤロシTomáš Jaroš(1500ブルノ ~71)が、柱の胴体を飾る神話の人物や、頂上にバグパイプ吹き小像(元は二羽の雌鷲)は、弟子のクシチカVavřinec Křička z Bítyšky(☨1570)らが作った。ブロンズ (94%銅, 6% 錫)の総重量は約5000 kgで、完成は1568年、水が引かれたのが1573年だった。なお周囲の庭園には中欧で初めてチューリップが植えられた。
むせび泣く噴水




3)Belveder「ベルヴェデル離宮」*1

Kamenná báseň v květné houšti, zelený smaragd v prstenu!
Lípa kol nízké větve spouští, stříbrných plné pupenů.
花咲く繁みの中の石の詩、指輪の緑のエメラルド!
菩提樹はあたりに低い枝を垂らす、銀の蕾をいっぱいつけて。

Hymnický pozdrav věčné krásy, vypjatým jásá obloukem.
Chrtů pár sivých jak hrá si ve skocích travným paloukem.
永遠の美の賛歌を、ひどくしなったアーチで歌い上げる。
灰色のボルゾイ犬が二三匹 緑の芝生をかけめぐ。

Akordem harfa v sladkém roztoužení, zahradou tisě zazněla,
do strum to sáhla v sladkém snění pravnučka rodu Jagella.
甘い恋歌にあわせ竪琴は 庭園に静かに鳴り響く、
夢見がちに弦をつまびくは ヤギェウォ家*2の孫娘。

Tóny se linou šepotavě, jak by kohos vábily.
A květy rudé pučí žhavě do sněné krásné idyly.
琴の音はささやき流れる、だれかを誘なうかのように
赤い花は燃えるように咲き誇る 夢のように美しい牧歌の中に。

Leč báseň klame. Tak být mělo. Královno, kdes zůstala?
Mrtvé zde leží tvoje tělo, a harfa darmo, darmo čekala.
だが詩は裏切る。致し方ない。王妃よ、どこにいるのか?  
むくろとなってここに横たわり、竪琴はむなしく待つばかり。

A věže tvrdé za příkopem strmě se poblíž zdvíhaj
A okénka v mřížích, děrou stropem buřiči v hlubeň padají.
壕の向こうのがっしりした塔は 迫るように聳え立つ、
そして格子窓、天井穴から 反逆者*3らが落ちたところ。

A jejich kletby, jejich stony v z`hradu drsně zalehnou,   
přehluší, harfo, tvoje tóny. Ach, požáry vůkol vzplanou.    
彼らの呪い、うめき声は 不気味に庭にこだまする、
竪琴よ、お前の音はかき消され、 ああ、あたりに炎が燃え上がる。
Budou se nové děje kouti a bratr bratra s trůnu rve.
V útulku lásky koncem pouti, šílený král lká hořd své.
新たな事件の機が熟し、弟が兄*4の王位を奪う。
愛の隠れ家で放浪の末 狂える王は己が悲運を嘆く。

Oj, přiletí vichry, bouř vše rváti započne kolkol příšerná.
Ty, ty budeš státi, kamenná básni nádherná!
ああ、強風がきて、恐ろしい嵐が*5あたりのすべてを吹き散らす。
だがお前はずっと立っていよう すばらしい石の詩よ!

Stavěla láska tvoji pýchu tesala krásu v kameny,
co jinde drtil českou líchu běs hněvu divě zjitřený.
愛がお前の誇りをうち立て、美しさを石に刻んだ、
さるほどにボヘミアの野を たけり狂う悪霊*6がひきさいた。

Och, kdyby láska jenom žila, jdouc krajem s přízní zraku,
ubohá země, kde bys byla, co by bylo zázraků!
ああ、愛だけが生き、ひたすら国中をめぐっていたら、
あわれな祖国よ、お前のいた国に、多くの奇跡も起きたろうに!

注;
1、聖ヴィート大聖堂裏手、王宮庭園東端に1538~63年間に,ハプスブルクのフェルディナント一世(1503~64)が、2度目の妃ポーランド出のアンナ(1503~47)のために建てさせた。
現在は文化展示場や、宴会場として使われている。 bel(美しい)+vedere(見る)=展望台
2、ポーランドのヤギェウォ家開祖ヴウァディスワフ二世(1456~1516)
3、スメタナのオペラの題材となった中世の騎士ダリボルDalibor z Kozojed(1498年処刑)や、ビーラー・ホラ敗戦主導貴族ら(1621年旧市街広場で公開処刑)。
4、マチアーシ王(1557~1619)は1611年に、狂える兄王ルドルフ二世(1552~1612)を廃位。
5、ビーラー・ホラの戦い。
6、上に続く三十年戦争。
ベルヴェデル離宮
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[ 2016/11/08 22:50 ] 音楽解説(チェコ音楽) | TB(-) | CM(-)



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